35日目 ストーン(番外編)


「ガシャー!」
金属のこすれる音がしました。
ボクは2階の窓から見ます。
自転車がはまっています。
石をほじくり出した穴に、
自転車がはまっているのです。
そばに泥だらけになった少年がいます。
少年は、ゆっくりと起き上がろうとしています。
ボクは、2階の窓から見ます。
少年は、自転車を穴から出します。
ゆっくりと自転車を押します。
(帰るのかな?)
と思っていたら、
クルっと向きを変え、自転車にまたがりました。
そして、勢いをつけてペダルをこぎます。
どうやら、少年は穴を飛び越えようとしているのです。
ボクは、2階の窓から見ます。
「ガシャー!」
2度目の金属のこすれる音がします。
どうしても、前のタイヤが穴にひっかかるのです。
2階の窓からみていたボクと、
倒れた少年の目が合いました。
『ガ・ン・バ・レ』
ボクは無言で小さく、うなずいてみせました。
少年は少しはずかしそうに微笑み、
再び自転車を押し始めました。
「もっと離れろ!助走をつけろ!」
ボクは夢中で叫んでいました。
少年の挑戦している事は、とてもくだらないことです。
自転車で穴を飛び越える。
たったそれだけのことです。
その、たったそれだけのことの中には、
多くの大切なものがあるはずです。
ペダルを思いっきりふむ少年を見てボクは思いました。
「グワッシャーー!」
という、今までよりも大きな金属音が響きました。
穴にはさまる自転車と、倒れた少年がいます。
少年は、歯を食いしばって起き上がります。
少年は自転車を見て、泣きそうになっています。
なぜなら自転車の前輪が、
「パックマンが口を開けた時」
の形になっているからです。
スポーク、ぐにゃぐにゃです。
少年は、回ることのない前輪を抱え、
ゆっくりと、穴を後にしました。
ボクはその少年の後ろ姿を見て、
「この世の中、まだまだ捨てたもんじゃないね」
と、思うのでした。