50日目 追跡


アリさんの行方が気になります。
ボクはキンチョールを片手にアリを追跡します。
ここでキンチョールをかけてはいけません。
ここでキンチョールをかけるのはアマチュアです。
やってはいけないことです。
なぜならバラバラになるからです。
一糸乱れぬ行進が、
バラバラになって目的地を見失ってしまうからです。
だから、
ボクはプロの微笑みで獲物を追跡します。
アリさんは上からプロが微笑みかけているとは知らずに、
せっせとニンジンを運んでいます。
扉のほんの隙間から、ボクの部屋に入っております。
ボクはすぐに家の中に入って、部屋から確認いたします。
(おる、おる)
今までまったく気づかなかった所から
アリさんは出たり入ったりを繰り返していたようです。
まさに、沈黙の暗黒集団です。
暗黒集団の行列は、
2つ並んだ本棚の裏に向かっております。
(近い、近いぜ!)
ボクのプロの微笑みが一瞬、硬直します。
人差し指をキンチョールのボタンにかけます。
本棚を少しずつ移動させます。
本棚といっても本なんか入っていないので、
わりとすぐ動くのです。
(な、なに!? もうひとつ向こうか!?)
2つ並んだ本棚のもうひとつ向こうに、
暗黒集団は音もなく向かっています。
ならば、これも!
と2つ目の本棚を動かしたました。

ぷしゅ~~~

キンチョール発射です。
勢いあまって、予期せぬ、
キンチョール発射です。
しかもキレイに行列にふりかかっております。
あわてたのは、暗黒集団です。
天空より悪魔の大王が降ってきたのです。
みんな一目散に逃げていきます。
そしてボクも驚きました。
自分で持ってるキンチョールを
意思に反して、
自分で噴射してビックリです。

ガシャーン!

倒れました。
本なんか入っていない、本棚が、
倒れました。
なんか割れたりしています。
最悪です。
アリさんどころではありません。