75日目 ヒト


ボクは、テレビをアホみたいな顔で見ていました。
ニュースをやっていました。
「猛暑の中、白クマに氷のプレゼントです」
とか言って動物園の白クマに大きな氷を与えていました。
白クマは氷に抱きついて、そりゃあもう大変うれしそうでした。
ボクは早速、冷凍庫の氷をひとかけら取り出しました。
(ヘルメットとベルにプレゼントするんだ!)
ボクは笑顔で外に飛び出します。
「うひゃあ!」
ドアのすぐ前で、気の弱そうなおじさんが叫びます。
ボクも驚いたけど、大声を上げて叫んだりしませんよ、ボクは。
「なんでしょうか?」
とボクは冷静な大人を演出しました。
すると気の弱そうなおじさんは、
「あ、あのこの本をぜひお勧めしたいのです」
と言って、本というにはあまりに薄すぎる
20ページぐらいの本を見せます。
光が~と書いてある20ページぐらいの本です。
ボクは宗教だなと思って、
「いりません、結構です」
と冷静な大人を演出して言いました。
すると気の弱そうなおじさんは、
突如興奮したかのように、ボールペンを取り出し、
「ここです、ここ!」
などと言いながら、本を開いて
下線を引きはじめました。
ちょっと力を入れすぎて破れたりしています。
(まいったなぁ~)
と思っていると、
「それと、ここ!」
とか言って、指に『ブッ、ブッ!』ってツバをかけて
ページをめくったりします。
「すみません、いりませんから」
というと、気の弱そうなおじさんはボクをにらみつけ、
「800円です」
などと言ってその本をボクに突き付けてきました。
驚いたね。
800円ですよ。
薄っぺらな本が。
しかも線とか勝手に引いて、破れたりして、
なおかつツバまで引っかけた物をですよ。
せめて新しいのを出しなさいよ。
とか思いましたね。
ボクは丁重にお断りしました。
すると、おじさんは
(ラジオ体操の深呼吸みたいに)ゆっくりと両手を上げます。
そして、
「はぁぁぁ~あ」
とか言って合掌しだしたのでドア閉めました。
で結局、氷は溶けちゃいました。
ボクの右手の中で・・・
ボクは、ポタポタと落ちる雫を見て、
人間って何だろう?
と思いました。





(もさり)