100日目 装飾


あれから、ほったらかしていました。
見ると、
カボチャは、こげたモヤシみたいになっとりました。
見るも無残な感じですね。
「喰ってやったぜ」
という顔で、這いずり回るヘルメットとベル。
世の中やっぱり、思い通りにはいかないものですね。
などと思いながら、トイレに行こうとした時、
ボクの右うでが、水槽に当たりました。
そんなに強く当たったわけではないのですが、
すー。
と回りました。
回るといっても壁があるので、わずかな回転ですが、
「NO摩擦」に限りなく近い回転です。
底に敷いている、かっぱらってきた鉄板です。
この鉄板が変形しているために、
コマが回るような現象が起こっておるのです。
それもちょうど、
水槽の真ん中あたりを中心として回転しているので、
バランスもバッチリという感じね。
ボクは、水槽を床に置きます。
回してみます。
が、
カーペットなので、うまく回りません。
もっとツルツルしたモノの上でなくては、
カーペットの摩擦で水槽は回らないのです。
ボクは、押し入れに飛びつきます。
ふすまを開きます。
ありました。
装飾ベニヤ板です。
表面にプリントされたベニヤ板です。
90センチ×90センチ。
けっこう大きいです。
これを床に置くには、スペースが足りません。
スペースを空けるには、片付けなくてはいけません。
そんなめんどくさいことは、もっぱら御免です。
だからボクはベットの上にベニヤ板を置きます。
勿論、布団をキレイに敷き直した上に、
ベニヤ板を置くのです。
そして、そのベニヤ板の上に水槽を置きます。
これで準備完了です。
さぁ、いよいよ回転の時です。
何回転するのか楽しみです。
ボクは水槽の角を持ち、
グン。
と回してみました。
スン、スン、スン
という感じで回ります。
バッチリよ。
かなりの「NO摩擦」よ。
ボクは「これなら、いける」と思いました。
なぜなら次は、
かなりのスピードで回さなければいけないのです。
それは、どういうことかというと、
ボクがトイレに行って、帰ってくるまでの間も
回り続けることが出来るのか?
を調べるためです。
いや、調べなくては、いけないからです。
早速やります。
ボクは両手で水槽の角を持ち、
勢いよくボートを漕ぐかのように、両手をはじきました。
最高。
高速サイコウ。
という感じ。
それはまさに巨大なコマがベットの上で回っているかのようです。
などと見とれている暇はありません。
ボクはトイレに急ぎます。
水槽が回転している間に用を足さなければ、ならないからです。
トイレに駆け込んだボクは、素早く放尿を始めます。
けっこう長いです。
とか思った瞬間、
ボカーン!
て破裂音がしました。
「落ちたか!?」
「落ちやがったか!」
ま、確認するまでもなく、水槽が落ちたのはわかります。
ボクは、ロング放尿が終わると、
恐る恐る部屋を覗きます。
!!!
回っております。
床に落ちて回っております。
でもカーペットなのになぜ回っているのでしょうか?
下を覗くと、ビデオテープです。
ビデオテープの上で回っています。
といっても、ほとんど止まる寸前です。
ボクは水槽の中を見て、ビックリしました。
ドーナツです。
土がドーナツ状になっておるのです。
水槽の端にへばりつくような感じです。
真ん中は底が見えています。
遠心力。
ボクの頭にその言葉が浮かんでくるのに
時間はかかりませんでした。
ボクはつぶやきます。
「・・・遠心力」
回転させるというだけで、
ヘルメットとベルの生活環境が一瞬にして変化しました。
これは遠心力のなせる技です。
しかも、ちょっと芸術的です。
そんな水槽を元の位置に戻します。
ボクは評論家のように、
ゆっくりと何度もうなずきます。
散らかった部屋に、
芸術作品が輝いています。