101日目 プレゼント


ナメクジは寒さに弱いといいます。
だからボクは、ヘルメットとベルに
プレゼントしようと思います。
氷です。
氷をプレゼントするのです。
きっと喜ぶはずです。
ボクは冷凍庫から、ひとかけらの氷を持ってきましたよ。
水槽に入れます。
ヘルメットを氷の上に乗せようとしましたが、
素手で触ると危険です。
ボクはもう一度キッチンに駆け込みます。
そして今度は割り箸を持ってきましたよ。
パチンッ!
割り箸を割ります。
ヘルメットを割り箸で、つまむのです。
ヘルメットを探すのにちょっと時間がかかりました。
でも、うまくつかめました。
正直、このつまんでいるナメクジは、
ヘルメットなのかベルなのか分かりません。
なぜなら、もう一匹が見当たらないからです。
まぁ、そんなことは慣れっこなので、
どうでもいいです。
今はこのヘルメットと思われるナメクジを
氷の上に乗せることが先決です。
!!
ない。
氷がないね。
溶けました。
あんまり、もたもたしたもんだから、
氷が溶けました。
チッ!
ボクは舌打ちします。
確かに、小さい氷でした。
氷のかけらというぐらいの大きさだったので、
仕方がありませんね。
ボクは、もう一度キッチンに飛び込みます。
今度は、さっきよりも大きな氷の固まりです。
待てよ!
ボクはキッチンを飛び出そうとして足を止めます。
氷を溶けにくくするものがあるのを思い出したからです。
それは、塩です。
塩をかけると氷が溶けにくくなるのです。
どういう理由でそうなるのかは、
知りません。
また、知ろうとも思いません。
なぜなら、めんどくさいからです。
ボクはめんどくさいことは、しないのです。
「シンプルに生きたい」
これです。
ボクは、氷と塩をひとつまみ持って水槽を覗きこみます。
まず、氷を入れます。
その上に塩をかけます。
そして、割り箸でつまんだヘルメットを置きます。
これで出来上がりです。
何が出来上がりなのかは、問題ではありません。
今、大切なのは、
「氷の上にナメクジが乗っている」
ということです。
それが、何よりも大切なのは分かりますよね。
「わからねえよ、バカが」
とか言うな。
ん?
なんかヘルメットが変ですよ。
よく見ます。
ひっついとう!
氷にヘルメットが、ひっついとう!
前に進みたいのに進めない、という感じです。
「これはまるで、トリモチだな」
ボクは落ち着いていますよ。
もうこれぐらいのことでは、あたふたしませんよ。
ん?
小さくなりよう!
氷につけた塩に、ヘルメットの水分が吸い取られて、
小さくなりよう!
もがけば、もがくほど、ヘルメットは小さくなってゆくのです。
「これはもう、踏んだり蹴ったりだな」
ボクはそうつぶやくと、
静かにブラインドを開けました。
窓の外は、木枯らしが鳴いています。