113日目 覗く


分かっとる。
つぶせばいいのは、分かっとる。
そうすれば、カバーグラスがぴったり張り付いて、
ちゃんと見えるわけですよね。
でもそれだと、ナメクジの子供が潰れます。
だからボクは、動き回るナメクジに、
カバーグラスを乗せた状態で覗きます。
たぶんこの辺だろう。
という所に合わせて、覗くのです。
横のネジみたいなのを回すとレンズが上下に動きます。
これで、ピントを合わせるわけです。
ボクはぐんぐん回します。
ちょっと急ぎます。
なぜなら、急がないとナメクジが動いて見えなくなるからです。
ボクは、体をほぼ直角にして、ひたすら覗きます。
片目をギュッと閉じて歯を食いしばります。
そうすると、なぜか口が片方ひらきます。
だからボクの顔は、デタラメなフェイスです。
この必死さが、研究者の心の姿です。
馴れた手つき風にぐんぐん回します。
覗いている顔と一緒に顕微鏡が下がります。
口を開いたまま下がります。
「ぜんぜん、ピント合わんやん」
と残念な気持ちになった瞬間、
ピチ
と鳴りました。
カバーグラスが、
ピチ
と鳴りました。
ボクは直角体勢のスタイルのまま、
われた。
と思いました。
そういえば小学校の時、理科の時間に先生が、
「ギリギリまで下げてから、上げなさい」
と言っていたような、いないような、
そんな気がしました。
ボクは割れたカバーグラスを新しいものに変えます。
そして、横から肉眼で確認します。
レンズをナメクジとカバーグラスぎりぎりに下げます。
これでOKです。
これで上げればピントが合ってゆくのです。
ボクは再び、デタラメなフェイスで覗きます。
いくぜ!
ピチ
・・・・・。
ちょっとよ。
ほんのちょっと回しただけよ。
下がったね。
顕微鏡と顔が、
下がったね。
回す方向を間違えたわけよ。
でもボクは諦めません。
そのまま続行します。
で、ピントが合いました。
そこには、拡大されたナメクジがいました。
・・・・・。
そうよ。
それだけよ。
別に顕微鏡で見るまでもない、
拡大されたナメクジがいました。
ボクは、ゆっくり顔を顕微鏡から離します。
そしてテレビのリモコンを手にします。
スイッチを入れます。
「ローマ法王の葬式に200万人集まった」
とか言っていました。