123日目 坂道


ボクは、自転車を格納してある倉庫に入ります。
倉庫といっても、せま苦しい物置です。
自転車は、見れば見るほど、
スクラップです。
ボクは、このボロボロになった自転車を
じっと見つめます。
6分、見つめます。
そしてボクは決心します。
しっかり口を閉じて、決心します。
なぜなら、この自転車は、思い出だからです。
ボクが、原付バイクを購入してから、
この自転車は家の裏に、ほったらかしにしていました。
すでにこの時、かなりボロボロになっておりました。
チェーンも外れて、パンクもしています。
サビもひどいわけです。
もう乗ることはないと思って、ほっといたわけです。
そんなある日、おばあちゃんが自転車を持って帰ったことを知りました。
でも、おばあちゃんは自転車に乗れません。
なんで?
とか思ってた、ある日。
玄関の前に自転車が置いてありました。
ドアを開けると、おばあちゃんがいて、こう言いました。
「出来たよ」
ボクは意味がわかりませんでした。
すると、おばあちゃんは言いました。
「自転車が、かわいそうやから直したよ」
ボクは、こわれた自転車を
自転車屋さんまで押していく、おばあちゃんの姿を思いました。
チェーンも外れているから音もうるさいし、一苦労だったはずです。
だけど、おばあちゃんは、
「よかったな、また乗れるよ」
といって微笑みました。
ボクは、
原付バイクがあることだし、
それに使えないからもういらない。
そう思っていました。
でも、使えないものでも直せば使えるようになります。
これは誰でも知ってる当たり前のことです。
そんな当たり前のことを教えてくれた、おばあちゃんは、
今はもういません。
だからボクは、直します。
たぶん、もとどおりにするのは無理でしょう。
だけどボクは、やります。
そして、もう一度ペダルを踏んで、
おばあちゃんの通った坂道を登るのです。