142日目 ワイルド


ボクは人差し指を鼻に差し込みます。
そして、ゆっくりと引き抜きます。
すると、ビヨ~んと、鼻水が伸びます。
風邪を引いたわけではありません。
ただ鼻水が出て、少し頭が痛いのです。
ちょっと、喉もイガイガしたりします。
「お前それ風邪だろ」
とか思うよね。
いえいえ、これ風邪ではないんです。
なぜならボクは、そう信じているからです。
その足でボクは、ホームセンターに向かいます。
「・・・またかよ」
とか、あきれなさんな。
とっても大切なモノを買いに行くんだから。
そう、それは、
水槽です。
「あんた、水槽、持っとるやん」
とか言うんじゃないよ。
今あるのは、60センチのタイプなのです。
デカいのです。
これからの時代は、小さくコンパクトでなければいけません。
デカいが一番!
のアメリカではダメなのです。
ワイルドではダメなのです。
なぜならワイルドは勢いだけだからです。
勢いがイイということは、必ずくだびれるのです。
スタミナが切れるんです。
とか、「ワイルドについて」を熱く語っているうちにボクは、
山積みされた「お魚飼育水槽セット(Mタイプ)30センチ」
を見つけました。
ボクは、山積みされた水槽の上から2番目を引き抜きます。
なぜなら、本を買う時も、上から2番目を買うからです。
みんなそうするのです。
だけどある時、本屋の店員さんが、
破れた本を上から2番目に移動させているのを見ました。
トラップです。
気をつけなくてはいけません。
ドガドガ、バギャ。
ガシャーン!
落ちましたよ。
一番上の水槽。
「だ、だいじょうぶですか!」
店員のおっさんが飛んできました。
「おケガは、ありませんか?」
ボクは、メダカの写真がついた、
「お魚飼育水槽セット(Mタイプ)30センチ」
を持ったまま、うなずきます。
そうです、両手を伸ばして、水槽を引き抜く時に、
ちょっと、足元ふらふらするよ~。
とか思ってましたよ。
そしたら、ご覧の通りよ。
クラッシュです。
いやこれは、トラップよ。
「本当に大丈夫ですか?」
店員のおっさんはボクに、そう声をかけます。
だけど、その目は、
「はぁ~、お前、2番目の引き抜いただろ。
 これお前、片付けるの俺なんだぞ。
 まったく、かんべんしてくれよ」
の目です。
ボクは負けません。
「こっち側の水槽を取ったら、そっちの水槽が落ちたんです」
と、ウソをつきます。
「あ、いえ、それはいいんです。
 おケガがなければ」
と、店員のおっさんは言います。
だけど、その目は、
「ウソつけ、お前。
 きれいに正方形に並べてるんだから、
 どこの水槽を取ったかすぐわかんだよ、バカ野郎」
の目です。
ボクは負けません。
メダカの写真がついた、
「お魚飼育水槽セット(Mタイプ)30センチ」
を持って、
「これ子供だったら大変ですよ。
 もっとちゃんと考えて並べた方がいいですよ」
と、アドバイスします。
おっさん唖然。
ボクは、そんなおっさんをよそに、レジに向かいます。
これでコンパクトになるのです。
ボクはウキウキ気分で家に帰りつきます。
ふと、玄関のカガミを見ます。
そこには、メダカの写真がついた、
「お魚飼育水槽セット(Mタイプ)30センチ」
を持った男が立っています。
そして、その男の鼻にはピアスが付いています。
いえ、それはピアスではありません。
鼻クソです。
さっき、鼻水を伸ばしていたのが、くっ付いて固まった、
鼻クソです。
ほんとにピアスみたいです。
かなり巨大です。
デカいのです。
アメリカ的ワイルドなのです。
やっぱりワイルドは、危険なのです。
今夜おっさんは、
「今日よ、ふてぇ鼻クソつけたバカが、
 メダカの水槽落としやがってよ」
と言って一杯やっているのです。