164日目 荒波とさざ波


湿気が多いのでしょうか。
水スプレーをかけ過ぎなのでしょうか。
水槽の中にコケが生えてきました。
ボクは雑巾でふきとります。
ところが、水槽の四隅のコケは、
取れません。
これは、シリコンでガラスをくっつけているからです。
シリコンはゴム状なので、
そのすき間にカビがめり込んでおるのです。
これは大変です。
なぜならカビは、
人間の肺に入ると、恐ろしいことになる。
とかなんとか、NHKで言っていたような、いないような。
そんな感じだからです。
ボクは、近くのスーパーに向かいます。
部屋を探しても無かった、
「めん棒」を買うためです。
「めん棒」は細かい所にまで手の届く、
すぐれものだからです。
ボクは、スーパーの入り口の外にある、
カゴを持ちます。
「めん棒」を買うだけですが、
ボクは、ちゃんとカゴを持つのです。
商品だけ持ってウロウロすると、
万引きするのかと思われるからです。
そんなのはイヤなのです。
ボクは、自動ドアから店内に入ります。
と、突然、目の前にワゴンがあらわれました。
店員さんが、ワゴンを押してきたのです。
ワゴンには小さなダンボールが2コ乗っています。
そしてそのダンボールには、
「タイムサービス!ジャガイモ一個8円」
などと大きく書いてあるではありませんか。
ボクは、
「やっべぇ、やしぃー(安い)よ、コレ」
とか心で叫びます。
よく見ると、
「お一人様10個まで」
と書いてあります。
別に今ジャガイモが必要かどうかは分かりません。
でもボクは、持っていたカゴを足もとに置いて、
店員さんもビックリするスピードで、
ワゴン横のビニールを引きはがします。
そして、ジャガイモをビニールにつめ込みはじめます。
と、同時に館内放送開始。
「え~、ただ今より、タイムサービスを行います。
 入り口やさいコーナーで、
 なんと、ジャガイモ一個8円!一個8円です!」
すると、今までゆるやかに流れていたスーパーの中が、
一気に加速。
主婦が襲いかかります。
じゃがいもに、襲いかかるのです。
ボクは、ジャガイモをビニールに8個入れたところで、
津波に飲み込まれる木の葉になります。
主婦の津波が、木の葉を打ち砕くのです。
と、その時、
わずかに視界の中に見えました。
ボクが足元に置いていたカゴを
どっかの主婦が奪い取ったのです。
ボクは、「てめ、このヤロ」とうめきつつも、
ジャガイモを取ります。
「お一人様10個まで」いけるのです。
だからあと2つ。
あと2ついけるのです。
だからカゴはあきらめるしかないのです。
ボクは右手を一生懸命に伸ばします。
今にも崖から落ちようとしているヒロインを助ける、
ヒーローのごとく。
そして見事、ジャガイモ2個を救出に成功するのです。
ボクは、主婦の荒波から逃れ、
入り口の外にカゴを取りにゆきます。
すると、
「あ!お客さん!商品持ち出さないで下さい!」
店員の叫び声が響きます。
ボクは、「いや、カゴ、」と言いつつも、
仕方なくジャガイモをキャベツの横に置き、
カゴを取りにゆきます。
まさに、万引き犯としてのレッテルを
貼られようとしたのです。
「くっそう、あの主婦め」
ボクは殺意すら覚え、カゴを取ってきます。
そしたら無いんですわ。
ジャガイモ。
必死に10個入れたジャガイモが、
無いんですわ。
これまた、どっかの主婦が、
かっぱらっとるわけです。
ボクは、主婦の荒波が、
一瞬にして、さざ波になったワゴンを見ます。
そこには、無残にも空っぽのダンボールが2コならんでいます。
わずか2分ほどの出来事です。
ボクは、
「主婦は大変だなぁ」と思いました。