170日目 全身で前進


ヘルメットはどうして前に進むことが出来るのでしょうか?
人間のように足で歩くわけでもありません。
タイヤがついているわけでもありません。
なんで前に進むことが出来るのでしょうか?
やってみます。
ボクは、うつぶせになります。
両手をピッタリと体にくっつけます。
このときに大切なことは、
指先を、しっかりと伸ばさなくてはいけないということです。
ボディと同化させなくてはいけないのです。
なぜなら、ヘルメットには手がないからです。
だからボクは、ベルトの穴を3コゆるめて両手をズボンに入れます。
手首まで、すっぽりとズボンに入れます。
そして指先を、しっかりと伸ばします。
今、この瞬間にボクは、完全にナメクジとなりました。

それでは前進です。
まず、背中の筋肉を使い両肩を持ち上げ、エビ反ります。
そして上半身が地面に付くと同時に、
形のよいヒップをぷっくりとなるまで持ち上げます。
そして、両足をそろえた状態で水泳のように蹴り出します。
横から見ると、全身を波打たせる動きです。
ボクは、この動きのことを、
「シャクトリ」と名づけました。
しゃくとり虫の「シャクトリ」です。
ほんとうは、「ウェ~ブ」にしようかと迷いましたが、
ボクは、「シャクトリ」と名づけました。

だから、ボクは、シャクトリで進みます。
前へ、
少しつづ。
どんなに遅くてもいい。
シャクトリで、
しっかりと前に、
進むんだ。
ヘルメットと同じように、
しっかりと前に、
進むん、
「ガチャ」
玄関のドアのすき間からのぞく、
知らないオッサンと見つめ合うナメクジ男。
見てはいけないものを見てしまった、知らないオッサン。
ナメクジ男と知らないオッサンは、
お互いの後頭部まで突き抜ける視線で、
しっかりと見つめ合うこと2秒。
「ガチャ」
静かにドアを閉める、知らないオッサン。
なんかのセールスか、
ガスの検針なのかは、
このさい、どうでもいいことです。
ここで大切なのは、
なぜ、オッサンは、
「ピンポン」を押さなかったのか?
なぜ、オッサンは、
勝手に玄関のドアを開けたのか?
ということ。
・・・・。
なめくじ男は、そう思います。