176日目 あいさつ


「こんにちは」
隣のオッサンが挨拶をしてきました。
ボクはちょっと驚いた顔で、
「こんにちは」
と言います。
なぜなら隣のオッサンは、
ボクが、これまで何度も挨拶をするのに、
完全に無視をしていたからです。
シャープな横目で、目を合わせるのに、
完全に無視をしていたからです。

なんだ、あんた。
やれば、出来るじゃねぇか。

という新鮮な驚きで、
ボクは挨拶をするのです。

なにかイイことでもあったのか、オッサンは、
「何?掃除?」
などと気軽に話しかけてきます。
ボクは、手にホウキを持っています。
だからでしょう。
オッサンはボクの返事を待つわずかな間、
壊れたあやつり人形のように、
頭を小刻みに動かし続けます。
「あ、はい」
ボクは答えます。
もちろん、本当の答えは違います。
ナメクジトラップのダンボールを
めくり上げるために、ホウキを持っているのです。
だから、ホウキを逆さまに持っております。
棒の方で、ダンボールをめくり上げるわけです。

「掃除すると、気持ちいいよね」
オッサンは、さらに会話を続行しようとします。
だけどボクは、
「ええ、そうですね」
という、どうでもいい返事をしながら、
ホウキの棒の方で、ダンボールをめくり上げます。
湿ったダンボールは、重たいので、
棒で上げると、やぶれて落ちたりします。
「ダメ、ダメ。手でしなくちゃ」
ついにオッサンは、アドバイスまで始めます。
ボクは、
「そうですよね」
という、どうでもいい返事をしながら、
再び棒でダンボールを持ち上げます。
今度は、ずっぽり奥まで差し込んで持ち上げるのです。
そしたらオッサンが、
「だから、ダメだよ、ダッ、あ!ヘビッ!」
と言います。
蛇が、
スルスルスル
とダンボールから出てきました。
ボクは、結構おおきいヘビが出てきたので、
「のお、はぁ!」
とか言って、棒を持ったまま飛び去ります。
そしたら、
スルスルスル
とヘビが、隣のオッサンの家の通風孔に入ってゆきます。
オッサンは、
壊れたあやつり人形のように、
頭を小刻みに動かし続け、
「は、入った・・・」
と言います。
だからボクは、
「入りました」
と言います。
そして、ボクは思いました。
「いやぁ、ひさしぶりにヘビを見たよ」